野にあでやか
秋の種子2種 タンキリマメ と マユミ
タンキリマメ | ともに青少年文化館奧の小径沿いに結実していた。◆タンキリマメは角度によって小さな赤いカニに見える。暗紅色の豆のサヤが付け根から先端にかけて縦二つに割れ、割れた両端の各々に一個ずつ、真っ黒に輝く丸い種子をつける。これが赤い甲羅から突き出した黒い眼になって見えてくる。 |
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◆マユミは色鮮やかで華やかこの上ない。桃色の果皮がまず二つに割れると、中から朱塗りの種子が二つ顔をのぞかせる。何日か後にはさらにそれぞれが時間差を置いて二つに裂けるが、面白いことに今度はそこに種子は一つずつしか見られない。桃色と朱赤が小枝の節々に連なり、木全体が華やかに染め上げられる。 | マユミ
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10 月
- 5日:▼湿気をたたえた早朝、ウスバツバメ三、四頭、頭上低く をヒラヒラと雌をたずねて飛び交っている。鱗粉の少な い羽がいかにも薄く弱々しげで、頼りなさそう。
▼登り口東の林中に、ジャージャーとカケスの大きな声響く。はや降りてきている。
- 21日:▼カマツカ、赤い実つける(土田泰)。
▼遠くでヒッ、ヒッとジョウビタキの声聞こえる。
▼尾根横のヨモギの茎に虫こぶ見つける。ヨモギクキコブタマバエという名の小虫の寄生によるもの(土田泰)。
- 28日:▼少年文化館奧で、アキグミ赤く熟す。近くでアケビも頭上から点々と実を重そうにぶら下げている。
▼黄に光るセイタカアワダチソウの花房で、オオホシカメムシ一頭、ミツバチやハエと共に仲良く吸蜜。別の花房では、片側前翅の折れて垂れ曲がったツマグロヒョウモン♂、風に揺られつつ無心に吸蜜している。
▼もと溜池の竹の伐採跡に、木々種々に生え、大きくなる。アカメガシワ、ヌルデ、クスのほか、コナラ、アカマツの常連に加え、ヤマガキが実をつけ、ウメモドキの真っ赤な実が鮮烈。クサギやクチナシ、マルバハギも含めてわずか一五b四方の狭い中に三三種もが生育している。
▼巨大な葉をつけて、ホオの幼木一株、見つかる。
▼ササ藪の中、チャッ、チャッと地鳴きしてウグイス移動。
▼尾根筋の西端、裸地で、アカタテハ一頭、翅拡げて日光浴。内翅の赤黒の紋様が鮮やか(土田泰)。
▼クロマツ林でビンズイ二、三羽初認(土田泰)。
▼尾根筋にコウヤボウキ点々と咲く(土田泰)。
11 月
- 3日:▼黄色い花咲かせて、ヤクシソウ一株見つける。島熊山で 初めてのこと(土田泰)。
- 13日:▼キキッと一声鳴いて、ツグミ上空を通過。
- 17日:▼青少年文化館奧で、マユミの実あでやか。桃色の果皮が 二つまた四つに割れ、朱赤に輝く種子が顔覗かせている。
▼近くでタンキリマメのサヤも割れ、裂けたサヤの縁から 真っ黒に輝く種子が二つ、行儀良く伸び上がっている。
▼甲虫の羽混じるペレット一つ、秋の陽に黒光りしている。
- 18日:▼あちこちで、ナンテンの実、朱に色づく。
葉とドングリ付きのコナラの小枝散在
産卵後チョキリが切り離し
新鮮な葉とドングリをつけたまま、 そ知らぬ顔で小道に落ちている ↑ | 必ず殻斗の上から穴を開け、産卵する。 小枝の切り口は、材に対して直角 ↑ |
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◆9月9日、2ヶ月ぶりの竹林整備の日、土田泰子さんが「これ」と言ってまだ萎れてない葉と緑のドングリをつけたコナラの新しい枝先を持ってきてくれた。それが何なのかすぐには解らなかったが、ハイイロチョッキリが産卵直後に切り落とした枝先だったのだ。ゾウムシ類はのんびりとした風貌と特有の所作が好きで、この山にも色々な種類が棲んでいて欲しいと日頃から思っていただけに、自身にとって初めての種の出現には大いに感激した。
◆必ず殻斗(ドングリのお尻が埋まっているイガ)に産卵の跡を示す小穴が開いているし、産卵したドングリを、それがついている小枝ごと切り落とすのが特徴。しかも切り口はスパッと鋭い―と説明を受けた。尾根道のあちこちに落ちているとも言われ、心がはやった。
◆会が終わり、帰宅後、暗くなる前に早速出かけた。神戸層群を過ぎ、心持ち薄暗くなり始めた尾根路に、ヤヤ、あった。確かに先程もらったと相同の、まだ青いドングリと新鮮な葉のついた小枝が何気なく落ちていた。しゃがんで手にとって確かめる。切り口がうす闇の中に白(左に続く)(右から)く鋭く光っている。殻斗には確かに灰色の染みになった小さい凹部がある。ここに産卵管を刺し込んだのだ。中には何日後かの孵化を待つ卵が収まっているのだ。孵化後は中の渋い果肉を食べて大きくなり、やがては自分で殻に丸い穴を開けて脱出し、冬も暖かな土中に潜り込んでサナギへと変身するのだ。
◆一つ目を見つけて感激に浸り、ふと辺りを見回すと、近くにまたあった。少し歩くと、今までなぜ気づかなかったのか不思議なくらい、幾つも見つかった。山にはこんなにも沢山のチョッキリがいたのだ。あらためて少し嬉しくなった。ただ願わくは、枝を落とさず、ドングリが自然落下するまで脱出を待って欲しいものだ。
8 月
- 11日:▼オープンランドで山火事起きる。原因未確定(土田)。
▼小草原で夕刻、夏の光を浴びて、ウスバキトンボ七ー八 頭、キラキラ輝きながら舞飛ぶ。
- 日12:▼まだ焦げ臭い焼け跡で、アリ(SP)数頭がはや活発に 活動。自分より大きなものをくわえて黒く焼けた地面を 移動している。コニワハンミョウも朝日に羽を薄緑に輝 かせつつ、何頭もが灰だらけの地面を小走りに動き回っ ている。ムカデの幼体も一頭、大きな顔して姿見せ。
▼神戸層群上で、タカサゴユリぽつぽつと咲き始め。
▼ツクツコボウシ、この夏の第一声。
▼林縁を赤い紋様打ち振って、クロアゲハ一頭、樹の葉に にまとわりつきつつ小刻みに移動。産卵の食樹探し。
▼尾根の切り通しで、クマバチ、強い上顎でせっせと壁面 の土をこそいでいる。産卵に備え、幼室の土壁集めか。
- 日15:▼夜、東斜面向かいでマツムシ鳴いている。初聞き。
- 日19:▼ヤマナラシの葉に産み付けられたガ(SP)の卵塊、80粒中53が孵化し、明日の命をかけて荒野へと旅立つ。
- 日19:▼夕刻、林縁のコナラ葉上に、サツマノミダマシ一頭、八本の手足を器用に前後に折り曲げて、じっと静止。
▼近くでアキアカネ、尾のみ真っ赤に染め上げて一日の休息へ
- 日22:▼夜、東斜面でリーリーと、細く柔らかくスズムシ鳴いている。
- 日27:▼アオマツムシ、数カ所で声高に鳴き始め。
9 月
- 日:▼尾根の小径にハイイロチョッキリの切り落としたコナラのドングリ付小枝が点々。どれも小枝に直角に鋭く切りつけており、ドングリのお尻には産卵の痕跡ついている(土田泰)。
▼ウラナミシジミ来ている。ササの葉上で夕刻の眠りへ。
▼オジロアシナガゾウムシ、六本の手足でクズの茎ギュッと抱きかかえ、何か考えにふけっている。触るとたちまちに落下。
▼毛深いサヤに固く黒い種子光らせて、アカメガシワ結実。
▼ジョロウグモ、長さも重さも自分の何倍もあるセミ捕らえ、抱えている。セミは産卵終え、力使い果たしたか。
- 日:▼山の何カ所かでヌルデ、葉を食べ尽くされている。トサカフトメイガというガの幼虫の仕業。幼虫が地面に潜り蚕食が一段落した株では、新しい葉も出て花も咲き始め ている。大小幼熟のヌルデミミフシが下がる株もあり。
トンボソウ花開く
楽しくトンボ飛んでるよう
上はまだつぼみの状態。 右は開花した花軸先端の拡大。 (写真は土田泰子さん撮影) | |
◆「6月20日につぼみの状態を見て以来、いつ咲くかいつ開くかと期待しながら何度か足を運んだ末、7月10日、とうとう花開いている姿に出会えた。やっと咲いた!と感動でした」と、土田泰子さん。「花の形が複雑で、現物を見た瞬間はその由来たるトンボにはなかなか見えなかったが、写真に撮り、拡大してじっくり見直すと、左右に拡がる2枚の羽や、後方に長く伸びる腹部、尾部が、なるほどトンボを思わせますね」とも話してくれた。
◆確かによく見ればスーイスイと楽しげに群れ飛ぶトンボのように見える。それも漫画に描かれるやや太り気味のトンボのようだ。島熊山で今までに出会ったトンボソウは、大概花軸が伸びきらないうちに虫に喰われてしまい、ここまで花をつけた株を見たのは初めてのこと。図鑑(山渓:日本の野草)によると、トンボソウ3種のうちでこの株は「オオバノトンボソウ」に該当するようだ。 |
6 月
- 2日:▼林床にゆったりと座り、積もる落ち葉を順にめくると、 色が濃くなり、湿り気が現れ、葉の表面には白や薄黄の 菌糸が思い思いに走り、腐葉の香が微かに立ち昇ってく る。積み重なった時間を逆にめくっているよう。
▼ヤマナラシの幼木で、サクツクリハバチ一頭、林立する 柵で自らを囲い、中で柔らかな葉を日がな食みている。
- 10日:▼青少年文化館南の林中、木漏れ日の当たる葉上に、モノサシトンボ♂一頭、体を水平にピンと張り、静止。追わ れてやむなく飛び立つも、またすぐに近くの葉に停まる。
▼ナツグミ、赤く柔らかく大きく熟す。食べると甘い。
▼小草原林縁のアキニレの幼木で、葉の表面に煙突から煙 立つごとく奇妙な突起が点々とできている。アキニレハ フクレフシと言う名の虫こぶ(土田泰)。
- 17日:▼竹が切られて出現した天へと続く空間に、コシアキトンボ二頭、互いに距離置きつつ、周回飛翔。
▼カノコガ、低空をよたよたと飛び横切る。少しだけ移動 し向かいの葉に辿り着くと、たちまち葉裏へ潜り込む。
▼ウグイス珍しく、低木の天辺近くに姿見せ、盛んにさえ ずる(田村、土田明)。
7 月
- 1日:▼トンボソウ、咲いている(土田泰)。
- 8日:▼手入れ進む竹林で、リョウブ咲き始め(土田泰)。
▼木々の織りなす空間を、モンキアゲハ一頭、ハタハタと 駆け抜けて行く。久しぶりの出現(土田泰)。
▼小草原で、チョウトンボ初認。ウスバキトンボの群に混 じり、気の向くまま、二頭が遊んでいる(土田泰)。
▼数カ所でキリギリス、ゆったりと鳴き始め。
▼チイ〜〜ッと細く高く、ニイニイゼミ鳴き始め。
▼クズ刈るそばにホシミスジ、時に滑空し時に軽く羽ばた きながら、ヒラヒラとやって来る。
- 15日:▼南斜面裾に、コマツナギ桃紅色に咲いている。
▼ネジバナ、キリリと螺旋に体よじり、地表より顔出し。
▼薄暗い林縁で、ジガバチ、麻痺させたガの幼虫を両手両 足で抱え、懸命に運んで行く(河原)。
- 23日:▼東斜面に、チチチッと鋭く鳴いて、ホオジロ♂来ている。
- 29日:▼カナカナカナ…と風に乗り、ヒグラシの声流れつく。
緋の模様も鮮やか
日光浴のヒヲドシチョウに出会う(高妻)
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◆「4月8日、古池そばの竹林内でヒオドシチョウを見た」との情報が、高妻さんから写真を添えて寄せられた。島熊山でヒオドシチョウは珍しい。昨年、やはり会員の土田泰子さんの記録があるが、それ以前となると15年前の92年夏、森のレストランが昼夜賑わっていた頃にまで遡らねばならない。
◆ヒオドシは緋縅と書いて、鎧の札を鮮やかな緋に染めた革や糸で緒通ししたその紋様から名付けられたというから、かなり昔から知られていたのだろう。後翅端の水色紋も緋色と対をなして鮮やか。6,7月に羽化後、姿が見られるのはわずか10日間ほど。その後高地へ移動するか、平地では夏眠に入るとされ、人目につきにくい。キタテハやルリタテハ同様、成虫越冬するので、写真の個体は越冬から醒めた親と思われる。 |
4 月
- 1日:▼ケヤキの中程、見晴らし良い小枝に飛上がり、シロハラ、 キョオロン・チチチチと澄んだ声でさえずっている。
- 5日:▼古池そばの竹林で、ヒオドシチョウ日光浴(高妻)
- 8日:▼コナラの高い梢で、メジロ、春到来の長い長いさえずり。 別の梢ではイカル、ホホヒホヒーと、澄んだ声で口笛吹 くように口ずさんでいる。
▼林中にホコリタケ数個、睨みきかせて座している(柴田)
- 9日:▼小草原を、ツマキチョウ懸命に飛ぶ(土田泰)。
- 16日:▼早朝の東斜面で、口に枯草くわえ、ムクドリ営巣の準備。
- 21日:▼センダイムシクイ、キビタキの声を聞く(土田泰)。
- 22日:▼アオダモ咲く(土田泰)。
- 26日:▼クロアゲハ、尾根筋東の林内を力強く飛び去る(土田泰)。
▼カマツカ咲く(土田泰)。
- 28日:▼春特有の強い風の中、クマバチ一頭、強固に縄張り主張 してブンブンとホバリング。近くを通過する者は小さな 虫からヒヨドリにまで、一気に飛び立って威嚇の攻撃を かけ、過ぎ去るとまた元に戻って空中で待機している。
▼尾根筋小径南のササ刈り進む開放空間を、ヤンマ(SP)二頭、互いに大きな弧を描きつつ、悠々と周回飛行。
▼強い風に乗り、ヤマナラシの種子、雪降る如く流れ行く。
- 29日:▼ハンノキの若葉巻き、ヒメクロオトシブミ初お目見え。
▼マツ幼木の当年枝で、アワフキムシはやブクブク。
▼小草原にニワゼキショウ、白や薄紫に咲き始め。
5 月
- 4日:▼クロバイ白煙の如く、枝先にあふれ咲いている。個別花 びらはどれも、驚いてパチッと目を見開いたよう。
▼クリの若葉の付け根に、艶やかな赤緑のムシコブ多数。
- 13日:▼オオスズメバチの斥候、いきなり近づき威嚇するや、ブ ンという羽音残して大きくUターンし、林中へ消え行く。
▼オープンランドに立つシャシャンボの若葉編んで、オオ ミノガ一頭、存在を主張。実に久々の出会い。近くには 異なるガ二種の大きな幼虫も同居、ハラビロカマキリの 卵嚢も枝に光っており、幼時、異種が棲み分けている。
▼小径の陽当たり良い枯れササの上、ムギワラトンボぽつ ねんとと日光浴。今年初認。
▼傘状に開く大きな複葉の下、ヌルデの花たわわに咲いている。
早春の息吹を探して
2 月
- 4日:▼島熊山緑地の深い林の谷あいで、アオバトの羽一体分が 散乱している。何者かに食べられた様子。オリーブがが った緑の羽が散る中に、白と若草色からなるとりわけ鮮 やかな羽が三、四枚混じる。
- 11日:▼モズ♀、近くの小枝を遠巻きに移動しつつ、守る会会員 の楽しい昼食を興味深げに観察している。
- 17日:▼小草原のハンノキ、固かった♂花穂も一部が開花。
- 18日:▼新散策路の東端出入口近くで、ツチグリ四つ五つ出現。 八〜一〇片に剥き開いた外皮を座布団にして、球状のキ ノコがちょこんと座している。触れると頭頂に開いた小 穴からヒューと茶色の胞子を吐き出している。
▼小径の真ん中にイタチ死んでいる。死後数日の様子。
- 25日:▼ヤマナラシ、一部で芽鱗割れ、♂花穂の柔毛顔見せ。
- 28日:▼夜気の中、ヒサカキの香微かに漂う。開花始まる。
3 月
- 4日:▼春陽さす小草原を黒い影がよぎり、枯草の上にスっと静 止。ルリタテハ初認。羽開いての日光浴もつかの間、突 然飛び立つや、近づく別の個体を激しく追尾し追い払う。
▼越冬チョウの顔見せ続く。キチョウは鮮やかな黄の羽う ちはたかせて、キタテハは素早くかつ大胆に飛び歩く。
▼竹林の中、ギンヨウアカシアまさに開花始まる。多数の 小さな濃い黄のつぼみ群の中に、二周りも大きな淡い黄 の花が、ボッと雪洞のようにぼやけて咲いている。
▼小草原西南端のコナラ、早くも新葉と花芽が顔出し。
▼新散策路出入口ではコウヤボウキの新葉も顔出し。
▼カラ混群の中で移動のメジロ二羽、途中の小枝で一時の 休憩。一羽がくちばしで相手の羽づくろいを手助けし、 他方は首を傾げて気持ちよさそうにそれを受けている。
- 5日:▼東斜面でウグイス鳴き始め。どうしてもホチョ、ヒチョ としか聞こえず。まだ極端に下手。
- 8日:▼朝、ヒガラ五、六羽の小群、コナラの冬芽をつつき採餌。
- 11日:▼新散策路の水場上で、コバノミツバツツジ一枝四輪開花。 木漏れ日を受けて、桃紅色が妖しくも鮮やか。今年初。
- 18日:▼林縁の深い落ち葉掻き分けて、カンサイタンポポ三株咲 いている。今年初めて。
- 21日:▼今年初めて、ルリシジミらしきの飛ぶを見る(土田泰)。
タヌキまだ健在 フンで存在を主張
小径の真ん中で存在を主張している。ブツブツの粗い粒となって見えるのはシャシャンボの実 |
◆年明け早々、嬉しいことがあった。昨年10月の事故を最後に、ここ島熊山では絶滅したかと心配されたタヌキに、別の個体がまだ生きている痕跡が見つかったのだ。 ◆中環沿いの急斜面で掘りたてのキツネの巣穴2本を見た後、稜線を通り、神戸層群を抜けて水場上の小径に入って間もなく、道の真ん中に黒光りのするフン3本がデンと落ちているのに出くわした。太さ20ミリ、長さ60ミリの、まだ柔らかな新しいもので、動物性の食物を口にしていないのか悪臭は全く無く、フンの大半はシャシャンボの実からなっていた。虫もトカゲも捕らえられず、一度に空腹を満たすカキにももはやありつけず、小さなこの実をせっせと口にして、寒空の飢えをしのいでいたのだろう。 ◆フンがタヌキのものだとより確かに思われたのは、フンの端に付着していた1本の毛から。長さ67ミリの直毛は根元から先端にかけ白から焦げ茶へと変化して、タヌキの色合いをよく示していた。それがフンの内容と結び合い、タヌキの存在を明らかにしてくれたのだ。「どっこい、おいらは健在や」と、フンで生存を主張しているかのようだった。狭く棲みづらくなったこの地で、何とかまだ生きていてくれたのだ。 |
12 月
- 10日:▼冬越しのまどろみ破られて、キチョウ、枯れ色に乾く草 の上をパタパタともがきつつ飛び動く。
2007年 1 月
- 4日:▼少年文化館出入口に、ロウバイ淡い黄の半透明に花開いている。つぼみも未だ多く膨らんで、まさに咲き始め。あたりにあっさりとした香り、微かに漂う。
▼アキグミの実、はやすっかり食べられている。
▼タンキリマメの実、陽を浴びて真っ黒に輝いている。
▼中環沿い斜面に、キツネの真新しい巣穴二つ。出入口に溜まる砂は一部が未だ乾いておらず、真新しい足跡が柔らかな砂に深く刻まれている。その二b下にもう一本、小振りな坑道が掘られている。
▼表皮が随所でめくれはがれた、一見枯れたツルから、鮮やかな緑の小葉が等間隔をおいて顔出し。
▼古池に近い小谷で、年老いたコナラ、幹にコケやマメヅタ、ノキシノブをまといつつ、悠然とそびえ立っている。
▼神戸層群への小径の真ん中に、出して間のないタヌキの フン三本一そろい落ちている。真っ黒でフン臭さは全くなく、シャシャンボの実が主成分。証拠を残すかのように、長い茶の直毛が一本、添えられていた。
- 8日:▼すっかり落葉してカラーンとした林に、ヒヨドリ、カケスの声響きわたる。
▼赤茶けて立ち枯れしたアカマツ、あちこちで目立つ。
▼クサカゲロウらしき成虫、日溜まりに弱々しげに静止。
▼アカマツの倒木に、シハイタケの仲間、ビッシリ。
- 14日:▼豊島東の小草原北裾で積もる落ち葉を掻き分けて、ヒトヨタケ三本、五本、塊となりヒョイヒョイ生えている。
- 20日:▼ツグミ四〇羽の群れ、山の上空を盛んに行き来している。キキッと鳴きつつ五ー一〇羽の小群が行き交うもあり、高木で休んだのち、時に四〇羽が一斉に動くこともあり。
▼竹林出入口に、七本に株立ちしたアベマキ危なげに立つ。
▼クスの葉をブツブツ小粒に膨らませて、虫コブ多数。
▼冬の淡い陽浴びて、ヤブコウジの実、真っ赤に輝く。
▼竹林北の尾根筋に、タヌキらしい小さいフン一つ。
▼竹林のフサアカシア、小さいつぼみつけはや春の準備。
- 21日:▼クロスズメバチ女王、見つける(田村、高妻、岸田興)。
タヌキ また はねられて死す
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またタヌキがはねられて死んだ。山の清掃日に当たった10月15日の朝、豊島横小草原の出入口にそれらしい死骸があるとの知らせで駆けつけると、若いタヌキだった。既に硬直しており、路上に血痕が激しく散っていた。夜半、闇に慣れた目を射抜く眩しい光に捕らえられ、怯えて身動きできないまま、頭部側から強くはね飛ばされたようだった。むごいことだ。口を浅く開けた顔は、無念さに歪んでいるようだった。(写真は土田泰子さん提供) |
10 月
- 2日:▼微かな冷えと湿り気が忍び寄る早朝の大気の中、ウスバツバメ数頭、ヒラヒラと頼りなげに飛んでいる。今年初。
- 8日:▼いつ山から下りてきたのか、林縁でジャージャーとカケスの声。近くではヒーホーヒーとイカルも鳴いている。
▼セイタカアワダチソウの花で、虫たちは吸蜜に押し合いへし合い。コアオハナムグリは天敵への警戒も忘れて花 穂を抱きかかえ、ハラナガツチバチはミツバチと先をって忙しく動き回り、ツマグロヒョウモンやモンキチョウは花から花へ、ゆったりと飛び移っている。
- 15日:▼車にはねられてか、若いタヌキ一頭、死んでいる。
- 24日:▼松林の中、ヒガラの群、細い声で鳴き交わす(土田泰)。
- 28日:▼山中にブチュチュと鳴いて、シロハラ来ている。
- 29日:▼間伐進む竹林林床に、実生で育ったコナラやアカメガシワの幼木、一人前に黄葉して自己主張。ヒサカキは丈伸 びて以来初めて緑のつぼみつけ、来春へ準備している。
▼林床から、クロコノマチョウ一頭、突然に飛び立つ。
▼ウスバキトンボただ一頭、寂しげに秋の野を飛び回る。
▼ナンバンギセル未だ咲く北斜面に、フユノハナワラビ、水煙の如くに花穂伸ばしている。どれも未だつぼみ。
▼オープンランドで、ヤマナラシの葉をハバチ幼虫が蚕食。食べ進む幼虫の周囲には葉の表面から白蝋状の棘が林立
11 月
- 8日:▼夕刻、キツネ、文化館前の道路を横断(少年文化館職員)。
- 14日:▼豊島東の小草原に生え育つハンノキの幼木に、トリノフ ンダマシぶら下がっている(土田泰)。
- 21日:▼シロハラ雄と雌、連続で少年文化館窓ガラスに激突死。
- 23日:▼山徐々に色づく。アベマキやヤマナラシ、イヌビワ、コ ウゾの黄、ヌルデ、ヤマウルシ、ナツハゼの紅が鮮やか。
▼東斜面で、ハマヒサカキ開花。独特の香り流れ漂う。
▼樹下にマンリョウ、真紅の実つけて傘拡げたる如く立つ。
▼晩秋の淡い陽吸って、フユイチゴ熟れて濃い朱に色づく。
▼松林林床でビンズイ五、六羽、尾を振り、歩きつつ採餌。
▼桃紅色のガクの中、ゴンズイの実、堅く黒光りしている。
▼アキグミの小枝に、ハラビロカマキリの卵嚢一つ。そば のササの茎には、オオカマキリの卵嚢、仲良く二つ並ぶ。
▼ゲゴッと低く潰れた声放ち、ルりビタキ低木間を移動。
大阪府から豊中市へ
基金の森正式譲渡される
8月31日、千里少年文化館後ろの島熊山(基金の森)が、正式な協定書をもって大阪府から豊中市へ譲渡されました。10月に公告され、豊中市の都市公園として認定された後、千里緑地と同様な活用が可能となります。府が計画したヘリポート建設の撤回を求めてから10年、島熊山はようやく平和と静けさを取り戻しました。この森では今年も子ギツネが2頭誕生しました。
8 月
- 12日:▼夕刻、今年初めてのツクツクボウシ鳴いている。夏もいつの間にか終わりに近づき、秋の気配ただよい始める。
- 17日〜:▼夜に鳴く虫、次々に登場。一七日はまず主役のマツムシ、東斜面で鳴き始め。今年は何カ所も一斉にではなく、二,三カ所のみの始まりで、盛期に比べ声もまだ低い。一八 日にはビッビッビッと、北斜面でハラオカメらしきコオロギ鳴き始め。二二日は昨年より二日早く、エンマコオロギむせび鳴く。
9 月
- 1日:▼東斜面と北斜面でリ〜〜ッ、リ〜〜ッと、夜気震わせて スズムシ三頭が声柔らかに鳴き始め。人家近く西のはず れでは、ツヅレサセコオロギがギーギーギー……と、い つ果てるともなく寂しげに夜を綴っている。
- 3日:▼早朝、セグロセキレイ親子、何処からともなく飛来して、短く刈り込まれた小草原を採餌に歩く。子は尾羽もすっかり伸びて体格は一人前も、背は未だ灰色が斑と混じり、キリリとした漆黒には塗りきれておらず。筆で一気に引くべき白眉も定かでなく、いま成人直前。歩く前を小虫が飛び立つと急ぎ合わせて飛び上がるも、空振り多い。
▼夜露に湿る丈高い草の葉裏で、カノコガ未だ眠っている。
▼アリ(SP)数千頭、白く半透明なサナギくわえて大移 動。ススキの根元から出て来るどのアリも、足が生え眼 のできた艶やかなサナギをくわえており、延々一〇bの 列をなし林縁へ消えている。別種による奴隷狩りか。
▼オープンランドのアカマツの木陰、クズの葉上に、ショ ウリョウバッタモドキ幼生一頭、キョトンと休息。
▼ヤハズソウ、桃紅色の小花つけている。
- 10日:▼北斜面に、ナンバンギセル一株二株と開花。
▼風の中、クサヒバリ、フィリリリと鳴いている(丸橋)。
- 18日:▼夕刻、サツマノミダマシ、網の中程で逆さになってじっ と獲物待ち。網糸の付け根の葉裏でもう一頭が待機。
▼昨年の茶変した果実残したまま、ハンノキの実大きくな る。小枝の先には来春花開く♀花穂までもが幾本も、細 い糸状になり伸びている。三世代が併存。
▼ヌルデの花咲いている。一部ははや桃色の小さな果実に 変わる。葉裏の付根に、ヌルデミミフシの小球でき始め。
オオミスジコウガイビル
◆梅雨に入り雨が何日か降り続くと、この期間だけ、しかも決まって同じ場所に姿を現す生き物がいる。オオミスジコウガイビルの名をもつコウガイビルの仲間で、大きなものでは1mぐらいにもなるという。事実、昨年見た個体は悠に60pはあった。例年1〜2頭が見られるだけなのに、今年は当たり年で、7月9日の朝、10〜40pまで長短合わせて7頭が、7人の侍然として一度に登場して、驚いたものだ。
降り続く長雨の恵みか
オオミスジコウガイビル 七人衆で華やかに登場
◆彼=彼女は何を食べ、どこに棲んでいるのか、酷暑と厳寒、とりわけ恐ろしい乾燥に耐えながら、梅雨どき以外の永い1年の大半を如何にしのいで翌年再登場するのか。その生活実態は皆目わからない。仲間の代表格たるコウガイビル(漢字を当てれば笄蛭)については幾つかの図鑑に多少の記載があり、寄せ集めれば@雌雄同体でA眼は小さく単眼が体側面に散らばるB傷を負ってもすぐに再生するC湿った場所を好みDミミズやカタツムリを捕食するE指標生物の一つで、その棲息は自然度の高さの証となるF江戸時代に婦人の髪すきに使った笄(こうがい)に姿形が似ており、コウガイビルの名が付いた――などの説明がかろうじてなされている。
◆ヒル類の捕食とは、多分、捕らえた相手の体液を吸うことなのだろう。オオミスジコウガイビルも大きくは違わないと思われる。だが、側溝の底壁を西や東へジワジワと這い進む歩みの遅さからして、断然動きの早くかつ力強いミミズを如何にして捕らえるのだろう。体長に比して著しく小さいイチョウ型頭部の中の、どこに位置するか見分けも困難な小さな口で、危険時には背負った我が殻深くに身をかくす隠遁の術をもつカタツムリの体液を、どうやって吸い尽くすのだろうか。体長が30pにも50pにも届く個体は、越冬越夏とともに、誰に教わるまでもなく、採餌の問題を解決してきた。書物の記載も、現場を見る機会もない現状は、想像力の飛躍を大いに試される時ではある。
6 月
- 3日:▼アリグモ、巨大な二本の触角でトントンと葉表をたたき つつ、獲物を探してコナラの葉上を徘徊。その触角の動 き、止まっては進む身のこなしは、まさにアリそっくり。
▼神戸層群の上、天へと解放された小空間で、クマバチ三 頭、互いに距離を保ちつつ占有飛行。時に相互の侵入が あるのか、二頭三頭が入り乱れ、激しく追い合い。
▼ウスバキトンボ初認。枯れて巻かれたススキの穂の上に 一頭ぽつねんととまっている。
▼南の小草原を風が走り抜け、伸びたチガヤの若い花穂、 ある時は一斉に同方向へ、ある時は右や左へ振り分けら れて、銀に輝きながら、しなやかに舞い、踊る。
▼ネジキ、つぼみつける。勢い良く伸びた当年枝に、提灯 を下げた如く十も十五もが順序よくぶら下がっている。
▼切断後間のない古竹の切り口に、白い泡がぶくぶくと湧 き溢れ、地面に流れ出している。湧いた竹水が発酵して どぶろくとなり、あたりは酒の甘い臭いが漂っている。
- 11日:▼林縁のエゴの枝先に、エゴノネコアシ一つ、でき始め。 淡い黄緑で、ネコが手まねきするその足先にそっくり。
▼ウメモドキ雄花、しめやかに咲いている。半透明な花弁 は瑞々しく、ごく淡い桃色に染まっている。
▼神戸層群斜面で、オカトラノオ開花。さっそうと横にな びかせた尾の付根から順に先へと、小花開いている。
- 18日:▼南すそ道沿いに、コマツナギ桃色に咲いている(土田泰)
- 23日:▼朝の東斜面で、ジキジキジキと、遠くナキイナゴの乾い た声聞こえる。今年初。
- 29日:▼オープンランドにネジバナ二本、キリリと咲いている。
7 月
- 9日:▼いつもの側溝に、オオミスジコウガイビル七頭が出現。
▼豊島横小草原にチョウトン三頭ボ初認(土田泰)。
▼迷い込んだのか、尾根筋でハグロトンボ初めて見る。
▼夏の風情漂わせ、オオシオカラトンボ♂初認。
▼山の数カ所でナツフジ咲き始め(土田泰、石田正)。
- 16日:▼間伐の竹林の中、リョウブの花、咲いている(土田泰)。
▼ギース、チョンと、キリギリス鳴き始め。声低く、調子 は間延びしており、盛夏時の力強さには未だほど遠い。
- 24日:▼夕刻、アブラゼミ、ヒグラシ鳴いている。今年初聞き。
若竹の液は甘いか?
切断面は醗酵物で白く被われており、甲虫がそれを舐めている。
◆若竹切りが一段落するとともに、切った人の中に、切り口から湧く竹の液(以下竹水)が甘いのか、それとも味などないのかという話題が持ち上がっている。SKさんなどはもとよりその気で、蛇腹のついたストロー持参であったし、ATさんは、節の中に良く竹水の溜まる切り方を提唱してもいた。
◆自身の少ない経験に照らせば、竹水はいつでもほのかな甘みがあった。それどころか、雨で薄まる不運にあわなかったからか、自然発酵をして、切り口は発酵物に被われて白変し、節の中に溜まる竹水はこれも薄く白濁して、微かなアルコール臭が漂っている現場にも何度か出くわした。原理はサル酒と同じで、竹水中の糖が竹表面や大気中の酵母菌により、自然にアルコール発酵したものと思われる。
◆一夏だけ開店する森の樹液レストランのように、竹水酒場も夜はもちろん、明るいうちからも近在の虫たちが集い、賑わっている。酔いのまわった虫は指で触っても動きが鈍く、運の悪いものが時折どぶろくの海に落ち込んで、息絶えていることもある。竹水は甘いか?と今問われても、ちゅうちょ無く「然り」と答えられる。
4月
- 1日:▼少年文化館奧の谷筋で、クロコノマチョウ一頭、突然足 元から、何やら迷惑そうにハタハタと飛び立つ。
▼陽当たり良い切り株の上で、カナヘビの幼体日光浴。
- 8日:▼木々次々と芽吹く。コナラは銀に光る柔毛つけ、アキニレは鋸歯深い鮮緑の小葉を幾重にも巻き束ねて、早くから芽吹いたエゴはその小葉を一斉に天に向け唄い上げており、アカメガシワの裸牙もまた何時しか緩んでいる。
▼ヒオドシチョウ、ルリシジミ初認。(土田泰)
- 12日:▼少年文化館駐車場近くにキツネ登場。職員の人、この後も二度、四月と五月に同じ場所でキツネを見る。
- 16日:▼山中の諸処に、コバノミツバツツジ咲きこぼれ。薄曇り の淡い光に浮かび、赤紫の花群が妖艶。
▼ヤマザクラの大きな傘の下、見上げればここもはや満開。
▼真っ白な花弁を五方に拡げ、ザイフリボク開花(土田泰)
▼クロツグミさえずる。(久下)
- 20日:▼マミチャジナイ七羽、木にとまる。(久下)
- 23日:▼少年文化館そばに、トガリアミガサタケ一本、ニョッキと生えている。粗く太い筆を逆さに立てたよう。奧の小径沿いには、ナツグミ全身に花咲かせ、甘い香流れる。
▼ビンズイは未だ居残っている。尾を振りふり、採餌。
▼尾根筋に、ヤマツツジ朱に咲いている。
5月
- 1日:▼コサメビタキとマミチャジナイ、撮影する。(土田泰)
- 3日:▼アカメガシワの小葉の上に、これも孵化後間もないマイ マイガの幼虫、一文字に背伸び。下の草間ではジョロウ グモの幼生、縮小版だが一人前の巣を張り、もう主顔。
▼ハンノキの若葉巻き、ヒメクロオトシブミゆりかご作り。
▼チヨチヨビーと、センダイムシクイの声盛ん。高い梢間を身軽に飛び回り、芋虫を見つけては食べてている。
▼コバノガマズミ、ボワッと開花。春そのもののよう。
- 14日:▼竹林の奧に、キンラン艶やかに咲いている。(勝田)
▼針金の身体に髪の毛の足六本、淡い草色の身体左右に揺れながら、ナナフシ幼生フワフワと歩いて行く。(高妻)
▼オオホシカメムシ出現。背の紋様が人面のよう。(井谷)
- 21日:▼樹間にキビタキを飛ぶを見る。胸の黄が鮮やか(北之坊)
- 25日:▼ヤマナラシの幹で、コムラサキ樹液吸っている(土田泰)
珍しい二体融合の年輪
この奇妙な紋様の年輪を、どう理解したらよいのか。
◆元来端正であった楕円は、めり込むほど強い左側面からの衝撃により、内へ鋭く歪み込んでいる。その中を、寒期生育の証である黒い曲線が、外縁と相似をなし、少しずつ間隔を縮めながら内へ向かって何本も平行に走る。だが、この曲線が幾重にも取り囲む中心部に、突然、それまでの流れを断ち切るようにして、同心円を描く異質の塊が二つ、あたかも頑固なコブの如くに渦を巻いて出現している。めり込んだ左コブの上端からは黒い曲線が次々に激しく噴出しており、ぐるり一周の後、今度はコブの下端に猛烈な勢いで吸い込まれているかに見える。その軌跡は、連星間に噴出する星間ガスの流路のようであり、また二極間に形成される地磁気の流れのようでもある。曲線の流れをたどると、左コブが発する幾重もの磁力線の束により、右コブをとり囲ってしまったかに見える。
◆だが実際に時の経過に照らせば、事実は全て逆となってしまう。黒い曲線は各々二つのコブの中心で独自に生まれて、まず10数年の間は同心円を描いて拡がり、さらに途中から相互に干渉し合いつつ成長する中で、ついには融合合体して、紋様はその合成形として発展していった。彼我の攻防を探れば、右のコブは静かに自己拡大をはかりつつ力を蓄積し、時の成熟を待って左コブに補足の黒い糸を矢継ぎ早に放って、自己へ取り込もうとしたのではないか。左コブの上と下とに糸が密に収束しているのは、コブを窒息させ、絡め獲るべき最終の段階に来ていたのではないか。左端の一部がかろうじて融合から逃れているのは、左コブがそれに最後まで抵抗していた姿ではないか。
◆しかし、マツカサの中の小さな種子からこの世に芽生えて左コブは19年、右コブは15年の単独生活を送り、さらに両者融合で20年を積重ねて都合40年近くの風雪に耐えた後、それぞれの思惑を残して、ついに松枯れという病の前に倒れて、一生を終えたのだ。
2月
- 12日:▼アラカシの冬芽に、ムラサキシジミの越冬卵点々。不思議なことに、そばには既に孵化して幼虫の抜けた痕跡の 殻も併存している(高妻)。
- 19日:▼カラの小混群、移動の最中、コゲラ、高所に開けた巣穴にヒョイと潜り込み、群から離れる(本條)。
3月
- 4日:▼年老いたアベマキの大木、太いのや細いのやフジの蔓を全身に巻きつかせたまま、それでも悠然として天に向け立っている。皺深い幹の全身には一面にコケも養い、北向き半身にはビッシリとマメヅタも従えている。
▼陽当たりの良い南向き斜面に、今は使われていないキツネの巣穴二つ。穴は入ると奧で二つに別れ、そのうち一本はさらに奧で二つに別れて、斜面深くに入っている。
▼体長二oの小さなクモ、コウゾの細い小枝に極細の糸で径一〇pの網張っている。小枝さえ動かぬ微風にも絶えず網は揺れ動き、初春の陽に金色や瑠璃に輝いている。
▼褐色の積もる落ち葉の間から、緑なすハコベ顔出し。先端には白い小花、ぱっちりと開いている。
▼ヤマナラシの雄花、一気に膨らみ開花。今絞り出したばかりの如く、小枝先端にニュニュッと噴き出している。
- 9日:▼ホー、ホケキキョとウグイス鳴き始め。未だ慣れないのか、キが一つ余分で、しかもその音を最も強調している。
▼ビービーと、梢の天辺でカワラヒワの声聞き初め。
- 10日:▼雨上がりの夜気の中、山から微かにヒサカキの香漂い流れ来る。朝には香らなかったので、今日開花したばかり。
- 11日:▼林縁で、陽気につられキタテハ越冬からお目覚め(土田)
- 19日:▼カラの混群に混じり、キクイタダキらしきを見る(土田)。
▼竹林内で、シュンランつぼみつけ、春を待つ(土田)。
- 22日:▼登り口そばで、レンギョウ、開花始まる。今日のこと。
▼元裸地南の山中で、五三年を生きたアカマツ二体、松枯れに侵されて切られる。年輪の粗密から、楽しかった時、厳しかった年が偲ばれる。
▼一五年と一九年を経て一本に合体融合したアカマツ、これも松枯れに勝てず、病み、切り倒される(岸田)。
- 24日:▼テングチョウ初顔見せ。日溜まりでのんびりと日光浴。
▼豊島高校東の林縁で、カンサイタンポポ一株咲き始め。